INTERVIEW:Michael Mack by Yusuke Nakajima(POST)


©Guy Archard
 
Interviewer:Yusuke Nakajima (POST)
聞き手:中島佑介(POST)

YN
写真や本に興味を持ったのはどんなきっかけですか?どんなところに惹かれたのでしょう?

MM 私はもともとコンテンポラリーアートに興味があったのですが、以前に働いていたギャラリーが書籍やカタログも出版していました。そういったギャラリーの違った側面から、自分の元来興味があるのは本のページと写真の純粋な関係性だと気付かされました。これは1990年代前半の事ですが、その時代は大判のプリントを制作するアーティストは少なく、写真作品といえば白かクリーム色のマットにはめてミュージアムガラスにオーク材のフレーミングという組み合わせの極めてトラディショナルな展示方法が主流でした。しかしそういった写真の見せ方は、大抵の場合、写真作品の見せ方としてはそぐわないと思っていました。ですが、本は写真の多様性に答える可能性を秘めていました。

YN 約15年間にわたるSteidlでのキャリアののち、2010年にご自身の出版社MACKをスタートされています。自身で出版社を立ち上げようと思ったのはなぜですか?

MM MACKを立ち上げたのは自ら書籍出版をキュレーションしたいという思いからです。一つのシリーズとしてという意味ではなく、各出版タイトルが独自の形態を持っていて、アーティストブックのような明確な意図を感じられるプロジェクトとして展開させることが目的でした。

YN 出版社を設立して、一番最初に出版された本についてお話を聞かせて下さい。

MM 最初に出版したのは『La Carte d’apres Nature』という本で、ドイツ人現代作家のトーマス・デマンドがキュレーションした展覧会に際して制作しました。この展覧会は、ルネ・マグリットによる人の手が加えられた自然とシュルレアリスムというテーマに焦点を当てたものだったのですが、当時の参加アーティストだったマーティン・ボイス、タシタ・ディーン、ルイジ・ギッリとはその後一緒に本を出版することになりました。私にとってこの本の制作過程はとても勉強になりましたし、その後どのプロジェクトにおいても毎回アーティストから新しいことを学んでいます。

YN 実際に本を作る中で、具体的にマックさんはどのような役割を担っていますか?

MM 積極的に本の制作プロセスに関わるようにしています。写真家とMACKの社内デザイナーであるグレゴワール・プジャド・ロレイン、ルイス・チャップリンの2人と密にやりとりし、アイデアを出し合ったり違ったアプローチを考えたりしています。テキストが入る場合は執筆を依頼しますが、最終的には私が全英語部分のエディターとして関わっています。

YN 出版社の方向性を決定づけることになった本があれば教えて下さい。

MM 挙げるときりがないですが、私たちの目指す方向性を決定付けた出会いはありました。例えば2004年からポール・グラハムと一緒に本を作っているのですが、私たちが一緒に作った一連の本はお互いにとって重要なものとなりました。それは本が形作られる中で生まれたコラボレーションプロセスのおかげだと思っています。

YN 出版に20年以上携わってきて、始めた頃と変わったことはありますか?それは、MACKにとってどんな影響を与えたのでしょうか?

MM 一番の変化はデジタル時代に突入したということです。アナログなものを浸食しているということではなくて、デジタルが紙の本の特性をより際立たせ、小さいけれど個性的でピンポイントなマーケットの発展を後押ししています。皮肉なことですが、このマーケットはネット上で展開されていてソーシャルメディアによって拡大しています。だからこそ、MACKのような小さな出版社がやっていけているのです。これは仲介業者、ディストリビューター、インポーター、卸業者、販売代理店などが何層も間に入って出版社の利益を少しずつ取り、バイヤーと出版社間の直接のやりとりを妨げる従来のような出版形態とは違います。

YN MACKからは、すでに国際的に活躍している作家の本だけでなく、若手や気鋭の作家のものも多く発行されています。こういった出版活動に力を注いでいるのはどういった理由からでしょうか?

MM 有名なアーティストだけではなくて、若くてこれから活躍するであろうアーティストもピックアップすることが生きた書籍作りに必要だと思うからです。それと、若くはないけれどまだ作品が世に出ていないアーティストの作品も定期的に出版しているということも付け加えておきます。また面白いことに、すでに有名になっている作家にとっては、リスクがあるけれど今まで見たことのない作品を紹介するような出版社と仕事をするのが好きみたいなのです。

YN 若手の作品集を出版する活動のひとつとして「First Book Award」を設立されています。このアワードを設立した経緯を教えてください。

MM 新しい才能を発掘しサポートするという目的のもと、写真集の出版経験のない写真家を支援するアワードをローンチしました。「National Media Museum」と「Wilson Center of Photography」の協力を得て、5年目となる賞の選考会を先日終えたばかりです。この5年間で、MACKは賞のグランプリ受賞者だけではなく、毎年応募者の中から少なくとももう一人の写真集を出版してきましたが、いつも大変おもしろく、実り多いプロジェクトとなっています。私たちにとって今まで見たことのない作品を見ることができるとてもいい機会となっています。

YN MACKは、作家と単独の出版物のみで関わるのではなく、継続的な関係を築いています。それはどういった考えに基づくのでしょうか?

MM 出版社を立ち上げてすぐの頃、アーティストとの関係が根本的にとても重要だと学びました。あるプロジェクトで一緒に本を作っていた写真家がいたのですが、出版社サイドのアドバイスを全く聞き入れず、非協力的な態度をとっていました。今では私たちと一緒に本を作り上げる気のない案件は断るようにしています。本を作る過程が楽しいのであって、それなしではただ商品を扱っている商売人に過ぎません。自分たちの出版する本に意識を集中させることが大事だと考えています。MACKは小さなギャラリーのようなもので、アーティストの作品やアイデアに長期にわたる視点で関わっていくことがお互いのベネフィットになるのです。

YN 本を出版し、世界に流通させていく中で大切なことは何でしょうか?

MM 出版社の仕事は本の作者や彼らのアイデアと関わり合いながら、より多くの人がその本を手に取るように発展させることです。出版というのはその本を手に取る人があってこそのもので、作者の仕事を新旧とらわれず様々なプラットフォームで発信するよう努めています。要するに、レンガやモルタルで建てられた昔ながらの本屋だとかオンラインショップだとかに関わらず、従来の印刷物やメディア媒体からソーシャルメディアまで、可能な限りの手段を使ってマーケティングすることが大事だということです。新しく本を手に取ってくれる買い手というのが今の私たちにとって将来顧客になりうる一番期待できる人たちですが、そういう人たちは皮肉にもオールドスタイルな本屋にどんどん戻って行っていると思います。だからこそ、私たちの本を写真やアートに興味のある限定的な人たちだけに発信するのではなく、それを超えたところにいる人たちに向けて自分たちの本を見せて欲しいと売り手に伝えることが重要になってきます。

YN これまでに制作されてきた本の中でも、良い結果を残したものがある反面、残念な結果となってしまったものもあるのではないかと思います。
「良い結果」というのは、売上げだけでなく、本の仕上がりというポイントやアーティストや著者とのコラボレーションの内容など、さまざまな基準が考えられます。あなたにとって、良い結果というのはどんな点が基準になっていますか?

MM 確かに「良い結果」の定義が必ずしも売上とは限りません。以前出版した本の中で個人的に好きなタイトルがありますが、必ずしもマーケティングの観点から成功したとは言えないものもありますし、逆にそうでもないタイトルがよく売れて増刷されたケースもあります。結局、私にとって「良い結果」というのは本の内容に尽きます。アーティストのコンセプトやアイデアだったり、それをいかにうまく形にできたかによります。

YN 優れたアートブックを作るために大切なことは何でしょうか?

MM 最近のアートブックでよくあるパターンが、デザインがいきすぎていたり、紙の加工や特殊技術に頼りすぎて気が散る形態の本になってしまっているケースが良くあります。本というのは触れた瞬間のあの独特なわくわくするような感覚がなければいけないと思いますし、それは触った感触や見た目だけではなく身体全体でその本に集中することが必要です。これは非常に知的なアプローチでコンセプチュアルな方法論でしかうまくいきません。

※このインタビューは、2016年4月にIMA CONCEPT STOREで開催されたMACK設立5周年記念イベント「MACK CONCEPT TOKYO」に際して行われた。


 

MACK
イギリス・ロンドンを拠点とする出版社。ドイツの出版社「Steidl」で約15年間にわたって写真集部門のディレクターを務めた経験をもつMichael Mack (マイケル・マック) によって2011年に設立。著名・若手問わず明確なヴィジョンをもつアーティストや作家、キュレーターと共に編集・制作されるハイクオリティかつ美しい写真集は、毎年数々の賞を受賞し、国際的に高く評価されている。2012年には写真集を出版したことの無いアーティストを対象とした「First Book Award」を「National Media Museum」と共に設立。アワード受賞者にはMACKによる写真集出版、流通サポートが行われ、写真集を起点とした若手アーティストの発掘・育成システムにも独自の手法で取り組んでいる。

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